2010年4月クールに日本テレビ系で放送されたドラマ『Mother』は小学校教師が教え子を誘拐し、親子と偽って逃避行するストーリー。松雪泰子が主演し、芦田愛菜の出世作でもある。多くの賞を受賞し、評価を得たドラマだ。その『Mother』が昨年10月25日からトルコのStar TVで放送開始され、反響を得ているというので、トルコ版の第1話を見せてもらった。日本テレビの監修のもと、リメイクされたトルコ版は母という意味 … こうした台詞とストーリーに共感した感想が多くツイッター上に寄せられ、賑わしているようだ。世界中のテレビ事情を調査するフランスのリサーチカンパニーWIT社によると、『ANNE』(『Mother』)初回は4万740件のツイートを記録し(放送前後6時間の集計)、「SNS上で話題の世界トップ10の新作ドラマ」にランクインしたということだ。使用されている言語は現地語のトルコ語。英語字幕をみた限り、台詞もそのまま再現されている場面がほとんどだった。特に脚本家・坂元裕二の独特の言葉選びが見せ場の主役二人だけの会話や、誘拐を覚悟する重要なシーンは言葉が違えどオリジナルと変わらない印象だった。イベント期間中のスローガンは『Korea、Story Connects Us』という。コンテンツ市場のビジネストレンドである国境を越えた共同開発や制作を捉えたものだろう。実際にそのスローガンのもと、マーケットを最大限に活用した攻める動きがあるようだ。現在発表されている韓国集中セッションにはMIPの顔のひとりである調査会社WitのCEOヴァージニア・ムスラーが主催する注目番組セレクション「Fresh TV Korea」や、韓国のデジタルプラットフォーム流通戦略をテーマにしたセッションなどがある。そして、MIPTV公式開発企画プログラム「In Development」にも韓国との共同企画会議が設けられる。韓国KCC推薦10人の韓国プロデューサーとのマッチメイキングや各所でピッチングやネットワーキングの場も作られる。日本のドラマはアジアで売れてもそれから世界に広がりにくいが、ネックだった言語やキャスティングの問題をリメイクは解決できる。また、アメリカで韓国発コンテンツが成功を収めた事例にKBCのドラマ『グッド・ドクター』もある。米ABCのリメイク版は世界ヒットドラマのひとつとして扱われ、全世界で視聴された実績は約5,000万人に上るとも言われている。韓国コンテンツの世界的評価は高まるばかりで、2019年5月にカンヌ国際映画祭で韓国映画初となるパルムドールを受賞した『パラサイト 半地下の家族』はまもなく発表される今年のオスカーでも最有力と予想されている。MIPTVを主催するリードミデムの公式リリースによると、最近の韓国政府の統計では韓国の文化コンテンツの輸出は2018年の前年比8.4%増の95億5,000万ドルに上る。日本円で換算すると1兆円規模である。また文化スポーツ省が発表したコンテンツ産業に関する報告書では2014年から2017年までの平均年間成長率は16%で、2014年に52億7000万ドル、2015年に56億6,000万ドル、2016年に60億8000万ドル、2017年に88億10万ドルの輸出があることを示し、右肩上がりの成長を続けていることを強調した。さらにKCCの報告では2018年に輸出されたテレビタイトルの総数は12万2,962に増加し、収益は3億2,680万ドルに上ったと付け加えられている。トルコ版を制作するMF Yapim(エム・エフ・ヤプム)は『Mother』に興味を持った理由をこう話している。韓国がMIPTVのカントリー・オブ・オーナーに決定したニュースを受けて、まず思ったことは「韓国にとってベストのタイミング」だということ。そう思わせるには理由がある。ここのところ世界的なヒット作を連発しているからだ。2019年に世界で最もヒットしたバラエティ番組に韓国MBC発カラオケ勝ち抜きバトル番組『THE MASKED SINGER』もひとつ。リメイクされた『THE MASKED SINGER』が2019年1月から米FOXで放送されたことのインパクトは大きく、2019年4月時点で既にドイツ、オランダ、フランスなどヨーロッパ各国や中国を含むアジアなど世界20か国に売れたことがわかった。10年以上にわたってフランス・カンヌの国際テレビコンテンツ見本市MIPTV/MIPCOMの現地取材を続けている。世界のコンテンツ流通トレンドをみるうえで欠かせないマーケットであるからだ。毎年、春の時期に開催されるMIPTVの関連ニュースが出揃いはじめ、カントリー・オブ・オーナーと呼ばれる主賓国、つまりMIPTV全体をスポンサードする国が発表されたところである。2020年のMIPTVカントリー・オブ・オーナーは韓国に決まった。政府機関である韓国放送通信委員会(KCC)が後援するかたちだ。なお、MIPTV2020は3月30日から4月2日まで開催される。日本では現在放送中の坂元脚本ドラマ『カルテット』(TBS)がツイッターのトレンドワードにランクインし、昨年のちょうどこの時期は月9『いつ恋』こと『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』もSNS上での反響が高かった。坂元作品は、「人間関係の本質を突くような台詞が魅力的」だと言われ、例え恋愛ドラマであっても、ありがちなラブコメタッチとは一線を画す。坂元裕二脚本、松雪泰子、芦田愛菜出演『Mother』リメイク版がトルコでヒット。女性を中心に支持され、視聴率も好調。1月24日まで12回の放送の中で1位を6回も記録している(トルコの場合はその日に放送された番組の順位が発表される)。またこれまでの同時間帯シェア平均は21%を超え、中にはシェア25.31%をマークした回もある。数字からもトルコでヒットしていることがわかる。話数の追加が決定し、日本では11話で完結したが、トルコ版は回想シーンなどを厚くし、30話を予定している。今年6月ぐらいまで放送が続く。坂元裕二脚本のひとつ、『Mother』(日本テレビ)が日本から遠く離れたトルコでリメイクされ、SNS上などで話題を呼んでいる。坂元作品は今期でいうと『カルテット』(TBS)、昨年では『いつ恋』(フジテレビ)がそうであるように、台詞の言葉選びに定評がある。リメイクによって日本のドラマも海外にも共感を広げることができるのか。年に4クールごとに新作ドラマを放送する国は日本ぐらいだ。深夜にまでドラマ枠が増え、各局で年間のドラマ本数は増えている。世界のコンテンツマーケットではNetflixなどSVODサービスの普及も影響し、ドラマ時代を迎えている。“とにかく新しい企画が欲しい”という声が高まる今、作品数の多い日本は攻め時である。オリジナルストーリーを書ける脚本家が育っていないとも言われているが、今回のケースのように海外でも注目される脚本家が出てくることによって、新たな人材を生み出すような好影響も期待したい。2012年から継続的に進めていた官民一体プロジェクト「トレジャー・ボックス・ジャパン」の新作バラエティフォーマット発表の場が今年は設けられないことが決定している。公式発表はないが、一定の役目を果たしたという理由からか、事実上の解散である。コンテンツ流通マーケット全体でみると、香港FILMARTやシンガポールのATFなどにおいて日本政府支援によるブース出展やネットワーキング活動を強化する戦略が実行されている。自国で開催されるTIFFCOMの活用も考え直していくべきところもある。市場を攻める手法はさまざまにあるが、韓国の今回の動きをみると、継続実行のなかで市場の動きを見定めて集中投下することの重要さを示しているようだ。アメリカにおける成功事例と数字上の成長性、そしてその根底あるコンテンツ制作力を表したものだ。韓国がMIPTV2020のトップスポンサーとしてカントリー・オブ・オーナーを務めることで韓国パワーが世界市場で念押しされることは間違いない。実は今年からMIPTVは出展形式をリニューアルする。マーケットのあり方が変わる時にあるが、やり方次第だろう。CJ ENMのソ・ジョンホ氏のコメントには「MIPTV2020のカントリー・オブ・オーナーに韓国が選ばれ、『K-Content』の魅力を世界に紹介でき光栄です。オスカーにノミネートされた映画『パラサイト』をはじめ『K-Content』の世界的なヒットのおかげで、韓国の制作力が認知度を高めている」とある。2010年4月クールに日本テレビ系で放送されたドラマ『Mother』は小学校教師が教え子を誘拐し、親子と偽って逃避行するストーリー。松雪泰子が主演し、芦田愛菜の出世作でもある。多くの賞を受賞し、評価を得たドラマだ。その『Mother』が昨年10月25日からトルコのStar TVで放送開始され、反響を得ているというので、トルコ版の第1話を見せてもらった。このMIPTV2020の公式リリースには「韓国のプロデューサーは最近の国際的なヒット作品を数多く抱えている」とも記されている。そして、『グッド・ドクター』を代表作に持つKBSコンテンツビジネス部門のエグゼクティブディレクターであるヒョン・ミン・パク氏と、韓国を代表する大手エンターテイメント関連企業であるCJ ENMのコンテンツビジネス部門シニア・バイス・プレジデントのソ・ジョンホ氏のコメントも続いた。※本コメント機能はFacebook Ireland 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Dere(ジャーンス・デレ)を教師役に起用。松雪泰子とどことなく似た雰囲気の正統派美人だ。子役は現地で売れっ子のBeren Gokyildiz(ベラン・ギョキルデ)が演じている。主要人物はほぼオリジナルに沿ったイメージの俳優がキャスティングされ、第1話はどの場面も忠実に作られていた。日本の場合は尺が1話45分だが、トルコ版は1話90分と、倍の長さになる。その分、状況を詳しく説明している部分もあるが、長さを感じさせない程度にテンポがいい。2話がすぐ見たくなるような演出も加えられていた。