音楽には、「赤色エレジー」(74年)発表以降、懐かしく未来的な宇宙観を音楽として表現してきたあがた森魚が招聘され、嵐電の走る街の夢想に響く郷愁的な音楽をつくりあげた。本作品で重要な舞台のひとつとなる帷子ノ辻駅がリンケージする、あがたのヴァージンVS名義の楽曲「カタビラ辻に異星人を待つ」(87年)が、本作品では挿入歌として使われている。京都の嵐電の街。鎌倉からやって来たノンフィクション作家の平岡衛星は、嵐電の走る線路のそばに部屋を借り、嵐電にまつわる不思議な話を集める取材を開始する。そこには、衛星と衛星の妻・斗麻子が、且つて嵐電の街で経験した出来事を呼び覚ます目的があった。嵐(あらし)と、電(いなづま)という文字を持ったこの電車は、線路を走っていたかと思うと、自動車と一緒に大通りを並走したりして、ひっきりなしに人を運んでいます。人を運ぶという事は、きっとその人の抱えているものも丸ごと運んでいます。誰かに対する想いも運んでいます。嵐電がすれ違うように、互いに偶然の交差を繰り返すたび、嵐のように電のように、物語がそこから立ち上がる、一瞬一瞬の光景を真冬の一時、掴みたいと思いました。福岡県生まれ。山口貴義監督の『恋のたそがれ』(94年)の主演・早川京子役を機に俳優を目指し、1992年に平田オリザ主宰の劇団・青年団に入団。以後、舞台俳優として活躍する一方、市川準監督『トキワ荘の青春』(96年)にて漫画家・石ノ森章太郎の姉役を演じる等、多数の映画及びテレビCFに出演。2005年、三浦基主宰の劇団・地点の俳優として活動の拠点を京都へ移す。主な映像出演作品に「北条時宗」(01年/NHK大河ドラマ)、『仰げば尊し』(05年/市川準監督)、『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』(10年/東陽一監督)、『夏の終り』(13年/熊切和嘉監督)、『マンガ肉と僕』(14年/杉野希妃監督)他がある。1974年東京都生まれ。映画『ワンダフルライフ』(98年/是枝裕和監督)に初主演。以降、映画を中心にドラマ、ナレーションなど幅広く活動。映画『かぞくのくに』(12年/ヤン・ヨンヒ監督)で第55回ブルーリボン賞助演男優賞を受賞。映画『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』(12年/若松孝二監督)では日本映画プロフェッショナル大賞主演男優賞を受賞。以降、映画『白川夜船』(15年/若木信吾監督)、『光』(17年/大森立嗣監督)、『二十六夜待ち』(17年/越川道夫監督)、『ニワトリ☆スター』(18年/かなた狼監督)、『止められるか、俺たちを』(18年/白石和彌監督)、『赤い雪 RedSnow』(19年/甲斐さやか監督)などに出演。公開待機作として、映画『こはく』(19年/横尾初喜監督)、『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』(19年/山崎貴監督)、『宮本から君へ』(19年/真利子哲也監督)が控えている。鈴木卓爾監督とは映画『砂の影』(08年/甲斐田祐輔監督)で共演。のちに鈴木卓爾監督作品映画『楽隊のうさぎ』(13年)に出演、今作『嵐電』で二度目のタッグとなる。京都の街は、東と西と北が山に囲まれた中に、ぎっしりと街が、箱庭のように詰まっています。空は時に澄み、時に霞み、深く広く感じます。他所の世界からやって来て、この街にいると、「来し方行く末」の感覚が不意に分らなくなります。ひょっとしたら、元々どこかに暮らしていたはずのこの身は、そちらでは現在行方不明となってしまっているのかもしれないと妄想します。この街の中を、生態系を黙々と移動する生命のように、すれ違い走り続けている小さな電車「嵐電」。嵐電の街に紛れ込んで、まるで出られなくなったような三組の男女の恋と愛の運命が、互いに共振を起すように進んで行く。そして、この映画の主題歌として新たに書き下ろされ、エンディングに鳴り響く「島がある 星がある」は、『嵐電』の世界観に潜む、京都の外と内とが行き違う事で絶えず生まれ続ける「強い思慕」を音楽的に引き出して映画を締めくくっている。1996年愛知県生まれ。京都造形芸術大学映画学科俳優コース卒業。演技を通して様々な人を知り自分自身も人になっていきたいと思い俳優を志す。在学中の出演作に、『たおやかに死んでいる』(17年/米倉伸監督)、『Sad Fuzz』(19年/岡本まりの監督)などがある。舞台ではVOGA『Social talk』(17年)サキ役として出演。今作が劇場公開映画の初出演作となる。1967年、静岡県生まれ。京都造形芸術大学映画学科准教授。長編映画作品に『私は猫ストーカー』(09年)、『ゲゲゲの女房』(10年)、『ジョギング渡り鳥』(16年)等がある。2018年、SF映画『ゾンからのメッセージ』を全国で公開中。少し不思議な人間外世界を意識した世界観の中に、ささやかな人々のドラマを描き、フィクションの地平を拡張し続ける。俳優としても活躍し、『容疑者Xの献身』(08年)、『セトウツミ』(16年)、『あゝ荒野』(17年)など、多数の作品に出演している。京都を走る嵐電の中で、溝口健二監督に「映画に出ませんか?」とスカウトされ、『武蔵野夫人』(1951年)や『新平家物語』(1955年)に出演をした俳優・西田智を父に持つ、京都の嵐電界隈に住む映画製作者・西田宣善の発案からこの映画はスタートしました。例えばF・W・ムルナウの『サンライズ』(1927年)、例えばアキ・カウリスマキの『浮き雲』(1996年)などのように、古今東西を問わず、市街電車の走る情景は非常に映画的な装置として、観客を魅了して来ました。西田は、撮影所のある街で起きるラブストーリーを、鈴木卓爾監督に依頼しました。1964年富山県生まれ。劇団状況劇場を経て映画界に転進。映画『SCORE』にて‘95ヨコハマ映画祭審査員特別賞を受賞。1998年日本テレビシナリオ登龍門佳作受賞を機に脚本家としても活動。主な出演作にハリウッド映画『シン・レッド・ライン』(98年/テレンス・マリック監督)、『CHARON』(04年/高橋玄監督)主演、『カミハテ商店』(12年/山本起也監督)、『11・25自決の日 三島由紀夫と仲間たち』(12年/若松孝二監督)、『千年の愉楽』(13年/若松孝二監督)、『正しく生きる』(15年/福岡芳穂監督)、『日本のいちばん長い日』(15年/原田眞人監督) 、『D5-5人の探偵』(18年/GEN TAKAHASHI監督)、最新作に『タロウのバカ』(2019年公開予定/大森立嗣監督)他、多数の映画作品に出演。現在、京都造形芸術大学映画学科教授。京都に修学旅行で、青森からやって来た女子学生・北門南天は、嵐電の駅で、電車を8ミリカメラで撮影する地元の少年・子午線を見かける。「夕子さん電車」という京菓子のマスコットキャラクターをラッピングした電車を見たカップルは幸せになれるという都市伝説に導かれるように、南天は子午線に恋をするが、子午線は「俺は電車だけやねん」と南天に目もくれない。だが、南天は自身の運命を信じるように、修学旅行の仲間も振り切って、子午線に突き進む。2018年2月から3月、京都市、東映京都撮影所、嵐電の京福電気鉄道株式会社、嵐電界隈にお住まいの方々の協力を得て、撮影が行われました。© Migrant Birds / Omuro / Kyoto University of Art and Design1990年三重県生まれ。京都造形芸術大学映画学科俳優コース在学時に、北白川派映画第2弾『MADE IN JAPAN〜こらッ!〜』(11年/高橋伴明監督)にて、松田美由紀とのW主演を果たす。2011年同学科を卒業後、多くの映画やドラマに出演し、実力派俳優として注目を集める。鈴木卓爾監督は2016年に映画学科に着任したため、既に卒業した大西とは大学での接点はないが、女相撲の力士・勝虎を演じた『菊とギロチン』(18年/瀬々敬久監督)で共演。主な出演作に、映画に『彌勒 MIROKU』(13年/林海象監督)、『くじけないで』(13年/深川栄洋監督)、『イニシエーション・ラブ』(15年/堤幸彦監督)、『ナラタージュ』(17年/行定勲監督)、テレビドラマに「白鳥麗子でございます」(16年/EX)、「ごめん、愛してる」(17年/TBS)、舞台に「民衆の敵」(18年/シアターコクーン、森ノ宮ピロティホール)など。日本映画隆盛の時代に、国際映画祭に登場し戦後の日本映画への世界の目を集めるきっかけとなった、黒澤明監督『羅生門』(1950年、第12回ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞)、溝口健二監督『雨月物語』(1953年、第14回ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞)、『山椒大夫』(1954年、第15回ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞)、衣笠貞之助監督『地獄門』(1953年、第7回カンヌ国際映画祭パルム・ドール)などが、嵐電沿いの大映撮影所で生まれています。京都市の西に、四条大宮、嵐山、北野白梅町を結ぶ、「京福電気鉄道嵐山線」が走っています。通称「嵐電=らんでん」と呼ばれ、地元の人々や世界中から訪れる観光客に親しまれています。沿線には映画創成期より撮影所が数多く作られ、東映京都撮影所、松竹撮影所では今日も映画の撮影が行われています。既になくなりましたが、大映撮影所、東宝撮影所、日活撮影所などの撮影所が集中していたことから、多くの映画俳優やスタッフの方々が撮影所へ通うため嵐電を利用していました。太秦撮影所の近くのカフェで働く小倉嘉子は、撮影所にランチを届けた折、俳優の京都弁の指導をする事になり、東京から来たそれほど有名ではない俳優・吉田譜雨と台詞の読み合わせを行う。初めて演技を経験する嘉子は、譜雨と擬似的な男女関係を演じる過程で、自分でも気づかないうちに譜雨に魅かれていく。嘉子は譜雨からの、一緒に嵐電に乗って嵐山の河原で台詞の指導をして欲しいという名目のデートを受け入れる。1999年兵庫県生まれ。京都造形芸術大学映画学科映画製作コース在籍中。幼少期に観た『インディ・ジョーンズ』シリーズが映画に興味を持つきっかけとなる。趣味は児童向けのお話を作ること。大学一回生の時に工藤梨穂監督の『オーファンズ・ブルース』(2018年)に俳優として参加したことをきっかけに俳優に強く興味を持ち始める。『嵐電』には俳優部、演出部として参加した。他大学の作品にはマザコン男子やダメダメ男子などバラエティに富んだ役で出演している。1992年新潟県生まれ。『この空の花 長岡花火物語』(12年/大林宣彦監督)にて映画デビュー。犬童一利監督のワークショップにて見出され、『きらきら眼鏡』(18年/犬童一利監督)で池脇千鶴とのW主演に抜擢される。その後も、NHK大河ドラマ「西郷どん」(18年)伴兼之役、BSテレ東ドラマ「神酒クリニックで乾杯を」(19年)4話メインゲスト・脇坂和也役など出演作が多数続き、 その演技力に注目が集まっている。1995年福井県生まれ。高校までは演劇の脚本や民族音楽等を学んでいたが、京都造形芸術大学映画学科・俳優コースで、映画に俳優として携わり始める。卒業後は、映画を中心にフリーの役者として活動。主な出演作に『サイケデリック・ノリコ』(16年/工藤梨穂監督)、『幸せのオカメウンコ』(17年/辻 凪子、村上由規乃)、『オーファンズ・ブルース』(18年/工藤梨穂監督/PFFアワード2018グランプリ作品)、『ミは未来のミ』(18年/磯部鉄平監督)がある。鈴木は2016年より京都造形芸術大学映画学科の准教授に就任、京都に住み込み街の空気を吸収し、『嵐電』のシナリオ開発を開始。学生と映画のプロフェッショナルとが一緒になって制作される映画学科の劇場公開映画制作プロジェクト「北白川派」で『嵐電』を制作する事になりました。