日本の伝統や文化を活かしたおもてなしを追求し、国内外に42施設を運営する星野リゾート(長野県軽井沢町/代表 星野佳路)は、長期化するWithコロナ時代の旅の在り方として、徹底した3密回避の旅を提案していきます。 大吉:関西に住む我々からすると、計画中の新今宮、旧奈良監獄、施設への影響は? 星野:私たちは、コロナ対策は18か月のプロジェクトだと思っている。今計画している新今宮、そして旧奈良監獄は2022年頃に完成するプロジェクトなので、今のところ全く予定に変更なく淡々と進めていきたいと思っています。 大吉:新今宮、奈良の施設は楽しみに待っている、で大丈夫ですか? 星野:もちろんです。この2つだけでなく日本全国、どれも運営をしっかり進めていきたい。 大吉:関西はインバウンドに支えられた数年間、ここはどう捉えていますか? 星野:実は日本の観光事業は26.1兆円という巨大な市場が存在している。その中でインバウンドは4.5兆円、だいたい18%程度なんです。大半のマーケットは実は日本人による日本国内観光なんです。かつ日本人は海外旅行に1600万人出て行っています。それが1.1兆円ですが、これは日本人が日本国内で払っている額で、私たちが海外で直接レストランで食べたりホテルに払っている分は、この計算に入っていない。この18か月の間、コロナが解決するまで海外旅行に日本人は行けなくなりますので、(インバウンドの)4.5兆円は失うかもしれませんが、下手すると海外旅行で使っていた2~3兆円が(国内に)戻ってくるんですよね。つまりインバウンドを失ったということは、日本の観光産業にとって、決定的に大きな打撃ではないのです。国内に十分な市場が過去にもありましたし、今もあるんです。国内にこれだけの市場があるのは、日本の観光の最大の強みです。ここをどうやって戻していけるか、が大事であり、観光人材を維持する上で重要なポイントです。 「悲観的に捉えがちだが、1年半という期間で今を見る」 大吉:代表の力強い言葉、働く皆さんが勇気づけられると思います。にしても通常通り運営できない施設、キャンセルが相次ぐ施設もある。社員やスタッフのモチベーションをどう維持し、鼓舞している? 星野:こういう時期は誰もが不安に思う時期です。なので3月末から社内専用ブログというのを書いていて、社員だけが見るものがあるんですが、その発信頻度を5倍くらいに増やしている。すごく大事なことは良いニュースも悪いニュースも社員に出していき、かつ合っていても間違ってもいいから、予測を出すことが大事で、星野リゾートはこういう予測に基づいてこういう対応していますと。(予測が)外れるか外れないかは不安視せずに、経営陣が考えていることをどんどん情報発信することが、不安を取り除く意味では大事。社員に安心されても困るので、安心しすぎない程度に、不安になりすぎない程度に維持していくことがチームにとって大事。 新型コロナウイルスの影響で苦境に立たされる旅行・観光業界。インバウンドの恩恵を受けてきた関西の観光はどうなっていくのか。番組『ミント!』の中で、星野リゾート・星野佳路代表にリモート出演して頂き、ポストコロナの展望を聞きました。(当日出演者:シャンプーハットこいでさん、シャンプーハットてつじさん、宋美玄さん(産婦人科医)、大吉洋平アナ、西村麻子アナ、辻憲太郎解説委員) シャンプーハットてつじ:18か月のプランが終えた後の世界を星野さんはもう見ているのでは?その世界を教えてほしい。 星野:「18」正しいかどうかわかりませんが、社員に対してメッセージを発信しているんですが、その18の理由は、実はあまり理由はなくて、これはワクチンの登場または治療薬の登場が問題を解決すると思っている。少なくともそれが出てくることによって、コロナウイルスは毎年のインフルエンザと同じになると私は考えています。その時には、旅行市場はコロナ前と変わるのではなく完全に元の状態に戻ると私は確信しています。従って、18か月の「コロナ新環境」と私は呼んでいるが、コロナ新環境に適応して素早く変わっていく必要がありますが、逆にワクチン、または新薬が誕生し、場合によっては、ある程度の集団免疫ができることによって致死率が落ちていく、そういう状態が生まれてくるとインバウンドを含めてマーケットは元に戻ると思っています。この期間、悲観的になりすぎないのが大事。特に4月5月は緊急事態宣言で悲観的になりすぎる傾向があると思っていまして、その時期は安心できる材料を社内で出すことが大事。6月以降は、逆に少し危機感を持って対応することを社内で促していきたいと思っています。 大吉:星野代表、大変お忙しい状況の中、ありがとうございました。 星野:こちらこそ、ありがとうございます。 大吉:大変な状況なんだけど、悲観的にならずに社員を鼓舞しながら具体的なビジョンを持っている代表の姿をどう感じましたか? シャンプーハットこいで:ほんまにそうなっていくんやろうというのと、(インタビュー時間が)短い時間でしたが充実感があって、「刑事コロンボ」を見終わった後の気分のようです。もっと聞きたかったです。星野:私はまず大都市圏から戻す前に、「マイクロツーリズム」を提唱しています。これは自宅から30分~1時間で自家用車で行ける圏内、近くてあまり行かなかったところを観光してみようということ。こうすることで、ある程度需要があり人材維持もできるだけでなく、大事なのはコロナウイルスの拡散に繋がらない観光です。ここから需要を戻していき、何とか日本の観光産業が18か月生き延びていく策を考えるというのがとても大事だと思っています。 シャンプーハットてつじ:乗り越えていくプランは具体的にあるんですか? 星野:18か月(1年半)で計画することが大事。18か月で見たとき、この4月5月は緊急事態宣言が出て、ウイルスの拡大を止めないといけない時期なのです。そういう風に考えれば、今はどちらかといえばうまく行っている時期。ちゃんと拡大も止まって来ているし、ここでしっかり止めることが、その後の日本国内の観光需要を少しずつ戻すことにプラスだと思っている。4月5月だけだと悲観的になりやすいけど、1年半という期間でとらえて今を見る。そうすることで私たちが何をするべきかが明確になっていきます。大吉:コロナの影響で人員カットの判断をせざるを得ない企業もある。人材に関してのビジョンは? 星野:日本の観光はこの20年間、地方を含めて観光人材を育ててきた。1年~1年半という私が設定した期間で、コロナウイルス問題は必ず終息してくる。そこからの復活のためには日本の観光人材を維持することは本当に大事です。この18か月の期間に観光人材がいなくなってしまうと、コロナが終息した後も私たちは戻ることができない、復活することができない。ですから何とかして18か月、企業として生き延びることも大事なんですが、同時にせっかく育てた観光人材をいかに残すかということが、日本の観光にとっても、私たちの企業にとってもすごく大事だと思っています。 宋美玄(医師):私も小さいクリニックをやっているが、代表の「従業員を安心させすぎず、心配させすぎず」というところに共感。モチベーション保ちつつ、でも危機感を持ってほしいということを胸に刻みたいと思いました。 (以下、敬称略) 大吉:今年は例年と違うGWでした、星野リゾートへの打撃は? 星野:私たちも緊急事態宣言が初めての経験だったので、まるで違うGWでしたし、打撃というよりマイナスはすごく大きかったです。 大吉:どれくらいのマイナス? 星野:観光需要全体が8~9割マイナスでしたので、私たちのような施設は90%以上売り上げが落ちた。これはGWだけでなく4月、5月の緊急事態宣言全体で言えること。 TEL:050-5328-7633(土日祭日夜間も可) 大吉:プロフィールを紹介させていただきます。1960年軽井沢生まれ、1983年慶応義塾大学を卒業、そのあとアメリカに渡られている。星野さん、1983年の留学って一般的ではなかった時代では? 星野:意外にMBAに行く人が増え始めた時期だったんです、私はホテル経営のMPSというプログラムでしたが、ビジネススクールに日本人が増えはじめ、ホテルスクールは私学年で1人だけでしたが、それでも当時は増えはじめた時期です。 大吉:1991年31歳の若さで星野リゾートの前身となる星野温泉の社長に就任。 星野:ちょうどバブル経済が崩壊した瞬間でして、あの崩壊がなければ当時社長に就任することもなかったと思っているんですが、そういう意味ではコロナ危機と少し似通ったところがありまして、ある日突然経済危機がやってきた、というときに社長就任しました。 大吉:そういう意味では、全国展開している星野リゾートは、東日本大震災の時も大きな危機に瀕しましたよね。 星野:ですから、社長就任時期にバブル崩壊、その後リーマンショックがあり、東日本大震災、私たち福島県に2施設運営して、原発事故の風評被害はいまだに続いている。そういう意味では何回か危機を乗り越えてきていまして、今回は過去にない経験をしているが、しっかり乗り越えていきたいと思っています。 「インバウンドを失ったことは、観光産業にとって決定的に大きな打撃ではない」 辻解説委員:確かに感染拡大防止につながる、一方で旅というのは、違う場所で刺激を受けるという側面もあります。居住地の近くに観光に行かせるアイデアは? 星野:これからの18か月の観光選びの基準は大きく変わっていて、「3密回避の滞在」が一番重要だと思っています。観光は安心安全の時間でなくてはいけないので、3密回避が守られていることを如何に旅行者に伝えられるかが一番重要です。そこは徹底して業界全体で取り組んで、「国内観光=安全」というイメージをどうやって作っていけるか、がキーポイントの第一番目です。実はマイクロツーリズムは日本の高度経済成長期はあった。今でも各地方でそれなりのボリュームで存在しています。この需要というのは、高度経済成長期の「上げ膳据え膳」というのが非日常だった。遠くに行って刺激を感じるとか都市観光するではなく、とにかく日々の疲れを癒す滞在、これが地方の温泉地ではほとんどがマイクロツーリズム市場だったんですね、昔は。山に行くと今は地産地消で「(食事は)山のもの出せ」というんですけど、昔は信州の山に近くの人が来てくれた時に「海のものを出す」のが非日常だった。今どうかというと、皆さん自宅で自炊している。毎日献立を考え、自炊して、食器を洗って、ということが起きている。私は昔の「上げ膳据え膳ニーズ」が、もしかするとコロナ期におけるマイクロツーリズムの市場の中でニーズになるかもしれないと思っている。3密回避の滞在を徹底し、保養型のゆっくり滞在できることを魅力にしていくことによって、日本国内にある、ある程度の需要を早く戻してくるという努力が大事だと考えています。 新型コロナウイルスの大きな影響を受けている業界の一つが観光業だ。なかなか先が見えない状況が続くが今何をすべきか。逆風下で新施設「界 長門」(山口県長門市)を3月12日に開業した星野リゾートの星野佳路代表に聞いた。 新型コロナウイルスの影響で苦境に立たされる旅行・観光業界。インバウンドの恩恵を受けてきた関西の観光はどうなっていくのか。番組『ミント!』の中で、星野リゾート・星野佳路代表にリモート出演して頂き、ポストコロナの展望を聞きました。